【あかしゆかの読書のススメ vol.1】選書を通して考える、本との向き合い方

人生のあるとき、僕たちは本を読む。

僕が思うに本は、適切なタイミングで僕たちの人生に介入してくれて、頭のなかにある淀みをそっと流してくれる。

習慣としての読書は理想だけど、必要なとき、僕の心に真っ直ぐ飛び込んでくる言葉が書かれた本だけをたくさん読む。

そんな本との付き合い方もあっていいはずだ。

 

今の僕に必要な本はどこにある?

「本屋にいると、たまに、本棚のなかでキラリと光って見える本がある」。

僕らの友だちであるあかしゆかさんは、そう表現する。ライターや編集者として活動しているゆかさんは、日々さまざまな本を読んでいる、僕が尊敬する読書家のひとりだ。

日常的に読書をたのしみ、本との関わりが深い人たちならきっと分かり合える感覚。でもまだ本との付き合いが浅い僕には、運命ともとれる本との出会い方が分からない。

知りたい。今の僕にぴったりの本を。その本がどこにあるのかを。そう思った僕は、以前アンケート選書という企画をやっていたゆかさんに手紙を書いた。

後日、選んでくれた本が僕の元に届く。 ゆかさんは一体どんな気持ちで、この本を選んでくれたんだろう?

 

1通目 山登りが好きな僕からゆかさんへの手紙

ゆかさん、こんにちは。寒暖差のある日が続きますが、体調を崩されてはいないでしょうか。

僕はなんだか毎日着るものに困っています。薄着の日は寒い、厚着した日に限って夏の一日。私事ですが、去年の暮れから少しずつ登山にハマっています。

特にきっかけというきっかけはないのですが、日が昇る前に起き出して、人がまばらな電車に揺られて約2時間、山の麓に着く頃にはもう明るくて、ここから1日が始まるな〜と思うと、その時点ですでにたのしいです。

山は自分の足で登るしかなく、途中で諦めることもかなわないので、ただひたすらに足を進めるしかありません。一歩一歩が着実に山頂へ繋がっているのだと思うと、すごくシンプルで、ラクでたのしい。

山登りでは、山でのコミュニケーションがあるのも魅力的です。人とすれ違うときには、こんにちはと和やかに挨拶を交わし、互いに道を譲り合ったり、山で散歩する犬と触れ合ったりしています。

山の麓にいるときよりも、お互いの間にある空気が柔らかくなる。多分そういう場所でもあるから、山登りが好きなんだろうな~と思います。 

 

ただ “本を選んでほしい” だけでは情報が少なすぎるから、最近の僕の趣味と、その想いについても手紙にしたためた。

この手紙を読んで選書してくれた本が、串田孫一さんの著書<山のパンセ>。さっそく本屋で購入して、一晩を使い一気に読む。

 

山に魅せられた作家・串田孫一が書く山の文章

後日ゆかさんと直接会う機会があったから、この本について聞いてみた。

「少し前から、私も山に興味を持っていて。それで読んだのが<山のパンセ>だったんだ。2021年の4月末に、岡山県の児島という場所で本屋『aru(アル)』をオープンしたんだけど、場所が登山道の入り口で。

山登りをする人を見かけたり、道を聞かれたりするうちに、どうしてこんなに山に魅せられる人が多いんだろう? と思ったことがきっかけかな。

串田孫一さんは、哲学者であり、詩人であり、作家でもあり、なんと画家でもあるっていう、複数の顔を持つ方なんだけど、中でも山についての文章を多く書かれているんだよね。哲学の本はたくさん読んだことがあったんだけど、山の本はあまり読んだことがなくて。

aruをオープンするタイミングで、やっと読む機会がきたかもしれないと思って読み始めたら、それはもう素敵な文章だった。山登りの孤独と自由、自然の四季折々の美しさが、優しくも考え抜かれた言葉で綴られていて。

山登りは哲学にも通ずるんだなと、あらためて山に対する興味を抱くきっかけにもなって。お手紙を読んで、すぐにこの本が思い浮かんだんだ」

 

ゆかさんの本の選び方

数ある “本” のなかからゆかさんに選んでもらった1冊は、今の僕の感覚にしっくりとくる内容で。ゆかさんは、どうやって本を選んでいるんだろう。本棚のなかでキラリと光る本って、どうやって見つけるんだろう。

「大学時代に本屋のアルバイトをしたことがきっかけかな? 私が恩師と慕う方がいるんだけど、その方が店長をつとめていた本屋があってね、店内の奥に、店長がセレクトした本が並んだ棚があったんだ。

その本屋は、私がそれまで知っていた新刊書店とは一味違って、多くが買い切りの、選ばれた本が置いてあった。“流行” に囚われず、凛と佇んでいるその棚にある本たちが、なんだか私にとっては光って見えたんだよね。

そこから本をたくさん読むようになって、いろいろ読んでいると、自分はこういう本が好きなんだというのが分かっていって。次第に、どんな本屋さんに行っても、光っている本に出会える機会が増えていった。

でもそれって、別に本に限った話じゃないと思う。例えば写真家さんだったら、“ある” と思う対象は本じゃなくて景色かもしれないし、音楽を作る人だったら、急にビビッとフレーズが舞い降りてくることがある。

生きてるなかで、なぜか気になるものってみんなそれぞれにきっとあるはず。ただ、私の場合はそれが本だったのかなあ」

そっか。心のどこかで正解を引き当てようと思うから、難しく考えすぎてしまうんだ。それで結果、何も選び取れなくなる。いま自分の関心があることに向き合って、本棚から “これかも” と思うものを、思いきって選ぶのが大事なのかも。

「そうだね。目的を持ちすぎると、それだけにしか目がいかなくなる怖さがある。目的をあえて決めすぎないことで、かえって大切なものを見つけられることもたくさんあると思うよ。

無目的に街を歩いてみるとか、無目的に本屋に入るのって、とってもたのしい。そういうときの方が、新しい出会いがあったり、新しい興味が生まれたりする。それがゆくゆく趣味になっていくことって、あると思うんだよね」

 

本は、読みたいときに読めばいい

本と向き合うゆかさんの姿勢。読書初心者の僕にとって、すごく理想的だ。でも、自分が読む本を自分で選ぶのと、自分以外の誰かが読む本を選ぶのは、違った難しさがあるよね?

「それは本当に難しい。その人のことを知り尽くすのは不可能だし、本には力があるって分かっているからこそ、責任があるなって思っちゃう。でも、その人のことを思いながら選ぶ時間はたのしいよ。

私が選書して読書のハードルが低くなることもあるかもしれない。でも、選ばれた本だからといって必ずしも読む必要もないと思っていて。

誰の言葉か忘れちゃったんだけど、『本は、側に置いているだけで半分読んだうちに入る』みたいなことを言ってる人がいたの。その言葉を聞いて、たしかにって。

読むきっかけがいつも側にあるわけだから、読書の一歩はすでに踏み出しているよね」

本は側に置いてあるだけで半分読んでる…。そう言ってもらえると、本に対する壁がまた低くなる気がする。

「本って、なぜか『読まなきゃいけないもの』だと思っている人が多いような気がするし、私も昔はそう思っていたけれど、そのとき別に読みたくないんだったら、無理して読む必要はないと思う。

音楽や映画など、それぞれ人によって、感じやすい表現手段は違うと思うから」

 

岡山の本屋『aru』

選んでもらった本が読みきれなかったらどうしよう…。そう思っていたんだけど、実際に本屋を運営しているゆかさんからそう言ってもらえたことで、肩の力がちょっと抜けたような。

ゆかさんが選ぶ、他の本についても気になってきた。そういえば、オープンしたばかりの本屋aruについても知りたいな。店名の由来って?

「人生のなかで、『ここにはなにかある』と思える直感を大切にしていきたいなと思って。これは本棚から本を選ぶときの話にも通じるんだけど、私はいままでの人生のなかで、目的を持って行動したことがあんまりないなと思っていて。

大学時代に本屋で働いたことも、それがきっかけで文章を書き出したことも、東京と岡山での2拠点生活を始めたことも、目的があって行動したわけじゃない。なんか気づけばそうなっていた(笑)。

全部直感で動いてきたけど、その直感の1つひとつには、それまでの人生の経験や思考の積み重ねがきっとあるんだよね。『ある』と直感で思えることには、きっとなにかしらの理由も『ある』。

そんなふたつの『ある』を大切にしたくて、“aru”という名前にしたんだ」

なにかがあると感じるものには、自分のなかに、きっと理由がある…。そう聞くとますます、aruに行きたくなってきた。置いてある本も直感的に選んだものが多いのかな?

「今まで読んできた経験から選んでる本がほとんどかな。でも、その本の多くは過去に直感で選んだものたちだし、結果的に直感で選んだものが多いということになるのだと思う。なかには、自分がこれから読みたいなと思う本も置いているよ」

 

ただ、そこにある。だが、そこにはある。

ゆかさんの直感から生まれたaru。心許ない直感は、現実に反映された瞬間にそこにあるものとして、日々存在感を増していく。 たまに視線を瀬戸内海に移しながら、ここで選んだ本を読む。

山の麓では、自然が発する音が一番のBGM。いつかaruに行って、自分の力だけで、今の自分に合う本を見つけたいな。

 

僕らの友達について

■あかしゆか

京都出身、28歳。大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。 現在はウェブ・紙問わず、フリーランスの編集者・ライターとして活動をしている。2020年から東京と岡山の2拠点生活をはじめ、2021年4月、瀬戸内海にて本屋「aru」をオープン。

Instagram:@akyskaa

Twitter:@akyska

 

 

今回訪れた場所

■aru(アル)

岡山は児島にある、月に1週間だけオープンする、海の見える本屋です。営業日時は、お店のInstagramにて。

Instagram:@aru___store

 

 

記事の創り手について

■anju - 取材・執筆

気がつけば読書にどっぷりと浸かる生活スタイルになってました。編集やライターをやりながら、本屋を巡っています。読んだらなにかが掴めるような記事を届けたい。

Instagram:@a___anju

 

■マンジュ コウキ - 撮影

宮崎出身、23歳。大学時代に趣味として写真に取り組むなか、写真を通して人に幸せを届けられることに魅力を感じる。現在は沖縄にて “自然で、優しくて、愛しさが伝わる” をテーマに、フリーランスフォトグラファーとして活動中。FUJIFILMが好き。

Instagram:@manju_koki

 

■シュン - 編集

チトセの代表と編集長、カメラマンを務めています。“僕らがたのしく生きるために” をテーマに、親しい友人から話を聞いているような、そんな等身大のメディアを目指して。「楽しいから楽しむのではない。楽しむから、楽しいのだ。」という言葉を大切に日々を生きています。

Instagram:@shun_booooy

 

 

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