【あの人のルーツを探る vol.3】ステンドグラスアーティスト ひらのまり

今僕らは、社会や未来の自分から選択を迫られている。これから先、どんな人間でいたいのか。そのためにどんなことを仕事にするのか。

さまざまな選択肢がある現代では、1回の選択で正解を選ぶことは簡単じゃないはずだ。だからこそ多くの人が「正解を選ぶのではなく、選んだ道を正解にしよう」と言う。

いくら考えても未来のことは分からない。自分も、社会も、この先どう変わっていくかなんて分からない。しかし、ただ立ち止まって悩んでいても、なにも変わらないのもたしか。

目の前の道を一歩ずつ歩んだ結果、自分らしい仕事を職業にしたあの人に、まずは話を聞こうじゃないか。憧れのあの人が、どんな生き方をしていて、今、何を考えているのか。どんな未来を想像しているのか。

少しでもその考え方に迫ってみよう。あの人の今まで知らなかった一面を覗いてみよう。表面上のモノだけをマネするのではなく、考え方に学び、得たもので、なんだかあの人にちょっとでも近づける気がするから。

 

vol.3 ステンドグラスアーティスト ひらのまり

ステンドグラスを使い、日常をモチーフにした作品を生み出すステンドグラスアーティストひらのまりさん。アートイベントやGINZA SIXでの展示など、国内をメインに活動している。

日本ではあまり馴染みのないステンドグラス。なぜ興味を持ったのか、なぜ日常的な飲食物をモチーフにしているのか。作品の裏側にある想いをずっと聞きたいと思っていた僕たち。

ひらのさんが3年間学んだという東京・外苑前にあるステンドグラス教室で、彼女の素顔をのぞいてみよう。 

 

物作りへの関心は幼少期の頃から

「洋服作りの現場では、システマチックに動く部分がどうしても多かったんですよね。そういうのを見ていたら、自分の手で生み出したものに愛を込めたい気持ちがどんどんと強くなっていったんです」

話を聞きに伺ったステンドグラス教室『璃房ステンドグラス』(りぼう)は、東京の外苑前にある。大きな作業台が2つと、ステンドグラス作品がいたるところに。こじんまりとした雰囲気だ。

アパレルの会社に勤めていたひらのさんは、生産管理の仕事に携わりつつも「まずは趣味から、自分の手でなにかを作りたくなったんです」と言う。

「アパレルは切磋琢磨する業界です。売れるモノを作り続けなくてはいけない環境はつまり、競争に勝つということ。そのことにずっと、焦燥感がありました。

“人と競争する” ということ自体が、自分には向いていないと思っていたんです」

洋服作りも、モノ作りのひとつ。優れた技術を持っている日本の工場はたくさんある。そして、失われつつある。現場を目の前で見続ければ、違和感は次第に大きくなる。

「もともと日本のモノ作りってとても良いなと思っていて。アパレルの生産は海外での大量生産をイメージしがちですが、私が勤めていた会社は日本の工場を使っていました。

100枚の洋服が丁寧に作られていく過程をこの目で見る機会があったんです。でも、それこそどんなに高い技術を持っていても、会社との相性が悪ければその工場とお仕事ができなくなってしまう。

その積み重ねで、下町ロケット精神の強い日本の技術が失われるのは悲しいですよね」

「手作りのモノ、モノ作りの技術には幼い頃から馴染みがありました。母がなんでも手作りする人だったんです。クリスマスプレゼントを手作りしてくれたり、バレエの習い事で着る衣装も全部。

だから、手を動かしてなにかを作ることが好きだったし、私にとっては当たり前の環境だったんですよね」

ステンド作品は、すべて手作業によって造られるモノ。専用のガラスカッターでガラス表面に傷をつけ、傷に沿って力をかけて割るところから作品作りが始まる。

幼い頃の環境と、ステンドグラスに触れる今の環境とが、延長線上にあった。

失われつつある日本のモノ作りの技術と、生産・消費されていく服。悶々とした気持ちを吐き出すように、自分の手でなにかを作りたくなったひらのさん。

彼女の元に届いたのは、ガラスを通って屈折した光だった。

 

10人中9人が陶芸と答えた。だから、ステンドグラスを選んだ

「教室を調べて、ステンドグラス教室にするか陶芸教室にするかを悩んでいると友人に話したら、10人中9人が陶芸って答えたんです。そっちの方がたのしいじゃんって。

それを聞いて、じゃあステンドグラスだなって。みんなと逆の道を行きたくなる性格なんですよ。とことんマイノリティな人間だと思います」

午後の陽光が差し込む教室で、ステンドグラスを通して色づいた光が床を彩る。ステンドグラスは大胆で、繊細。相反する性質を持ち合わせたステンドグラスと、ひらのさんの姿が重なって見える。

「ガラスという光を通す素材に惹かれたからでもあります。教室で3年ほど学びながら突き詰めていくなかで、このモノ自体に可能性を感じたんです。どんどん惹かれていきました」

誰も選ばない道をあえて行く、とことん職人気質の性格。自分のペースで、自分が作りたいモノや極めたい事を追求したい気持ちは、人一倍強かった。

だから「みんなが目指す目標に向かって同じように進めない」と言う。3歳から高校生まで続けたバレエよりも、小学校の一輪車クラブの方が “ハマった”。

他人との競争ではなく、自分自身と向き合い、自ら目標を見つける環境を選んでしまう性格だと話す。

「みんなで一緒に前ならえと言われると萎縮しちゃう。けど、自分が熱中できるものを見つけたら、目標のレベルを上げて極めていきますね。

これは心構えでもあって。例えば山登りだとしたら、高尾山に登れるようになればその次は難しくても必要な準備をして富士山に挑みたいという気持ちがでてくる。

そしたらその次は、エベレストだよねってなるわけじゃないですか。そこはもう誰かと競うものではないんですよ。自分が目指す富士山を登るだけ。

ステンド教室も、『自由にどうぞ』という先生のスタンスが自分にフィットしていたんでしょうね」

 

現代から新たな光を当てる。ステンドで証明したいこと

ステンドグラスの歴史は古い。もともと文字を読めない人にも聖書の教えが分かるように作られた背景があり、宗教との関わりも深い。

ティファニーはステンドグラスの技術をアメリカに持ち帰り、独自の技術でティファニーランプを生み出している。しかし、そのランプは120年前からなにも変わらないまま今に至っている。

たしかに言われてみれば、ステンドを使った日用品はティファニーランプで止まっているし、ステンドグラスは教会のイメージが強い。そこに強烈な違和感を感じたと言う。

「ステンドグラスにはもっと価値があるし、クリエイティブだってことを伝えていけるんじゃないかって思ったんですよね。

たとえレトロだと言われたとしても、なにかしら新しい形になっていないと今の人は見てくれない。じゃあどうしたらいいかを考えた先にステンドの歴史を学んで、教室文化だけが根づいている現状を知りました」

クリームソーダ、パンケーキ、プリンアラモード、ヌードル、コーヒー、ピザ。これは、ひらのさんが今までに生み出したステンド作品だ。どれも身近にあるものがモチーフになっている。

ガラスは主に透明なものを扱い、食品サンプルの技術と組み合わせている。本物のようだと思い手に取ると突き放される感じ。ステンド作品と私たちの心のあいだに、適度な距離感が保たれているのが魅力的だ。

「日本人にとっては、ステンドグラスは異文化的なものです。ステンドは教会で見られるものですが、日本には教会に行く文化がない。でも西洋でステンドに神の姿を見るように、日本には神社仏閣に足を運び神に会う文化はあるわけです。

すべてに神様が宿るという考え方もありますよね。日常に多くの神がいて、だから日常は尊く、豊かだと感じられるのが日本人です。そこに、ステンドに神の姿を見ることと共通する精神性を感じました」

「日本人は、海外からきたモノを創意工夫して独自の文化にするのが得意です。餃子やラーメン、パンケーキも海外から輸入して、うまく取り入れた。

そうした要素もステンドに反映させることで、日本人にだって反応してもらえるかもしれない。そこから新たな需要も生まれたらいいなと思っています」

光が当たっていないところに光を当てたい。ひらのさんは何度もその言葉を口にした。それを証明するために絶対的に必要だと言うのが、歴史やロジック、裏づけだ。

「私がやりたいのは、ステンドの今のあり方や美しさをそのまま伝えることではないんです。ただ作りたいからではなくて、背景を知ったうえでアウトプットすることが重要だと思っていて。

西洋芸術は、過去を壊すことでその歴史を繋げてきました。カラフルなガラスを使うステンドだけど、その真逆をやってみたかったから透明のガラスを使った作品を作ってみたし、今後は色ガラスも使っていきます。

仮説と検証、結果を繰り返し続けています。すべては光が当たっていないところに光を当てるため。これをステンドで証明したいんです」

 

周囲から与えられたアーティストという職業

人と同じ目標に向かって歩けない。底の見えない孤独にのまれそうになることもある。僕らは思う。ひらのさんの生き方や活動の信念は、同じ性格を持つ人や境遇の人にとって、強い心の支えになるのではないかと。

「アパレル業界では、デザイナーやスタイリストなど、カッコいい肩書きはたくさんありました。その職業を並べたときに、私はどれになれるとも思えなかったんです。

なにかをやらなきゃと考えると焦ってしまうし、そこに執着してしまう。そういうときって、心が自然な状態じゃなくて惑わされちゃうんですよね。

大事なのは『なんで』の部分。なんでこれをやっていて、もっと上を目指したいと思うのか。理由が軸を持ち始めることって、とても大切だと思うんです。

私自身、アーティストになりたいとは一度も思ったことがなくて。今でもアーティストだからと自覚してやることは一切ないですし。私の場合は、ステンドによってアーティストという職業を与えられた。

周りからの評価は必要だけど、胸を張って自分はこれがいいと信じてやることが一番カッコいいです。私の活動なんてまさにそう。ステンドなんてって思う人はたくさんいる。

誰も私のことを知らないところから始めて、苦しいしかないんですよ。常に葛藤しているし、もう辞めたいと思うことも日常茶飯事です。

でも、人が感動するもの、琴線に触れるものは、必ず作り手の熱量があって初めて響くものだと思う。だから葛藤し続けなくちゃいけないんです。

アーティストとしてなにかを感じてもらう側だから、考え抜くことをやめない。もし止まってしまったら、私は何も成し遂げられなくなってしまうから」

 

もがき、もがいたからこそ。自分にできることがあるなら

「日本にある技術で何ができるのかを模索しています」

凛と佇むステンドグラスの裏には、今までを並々ならぬ想いで歩んできた姿があった。最後に聞いたのは、これからのステンドグラスの可能性や今後の目標について。

「今作りたいと思っているのは、ガラスの服。ガラスの服なんて、着られないじゃないですか。でもそれでいいんです。マネキンに着せて、それ自体が彫刻。

ガラスの服に光が当たったら、どう美しく見えるんだろうって。町工場を周って、他になにができるのかを考えたいですね」

日本ではステンドグラスで使われる板ガラスはほとんど作られていない。

「日本の感性を活かしたガラスもいつかは作りたいと思っているし、作れると思っています」

日本製のオリジナルガラスを作ることも、今後の目標の1つだと言う。

「周りから見たらガラクタに思えるものでも、自分にとっては宝物だってことはみなさん自身のなかにもあるじゃないですか。そんななかで生きづらい気持ちを抱えている人に、私はそんなことないよって伝えたい。

実際、ステンドの活動を通してそう思っているので。モノの価値、物事の本質を問い続けていきたい。そんな想いでやっている部分もあるんです」

 

最後はどこまでやり通すことができるか

好きな言葉がある。「最後までしつこくやり続けた人が夢を叶える」。誰もが口にし、しかし簡単には実行し得ない真理。ひらのさんは間違いなく、やり続けることを決心している人だと思う。

ガラスは熱によって形を変えるが、火を加えることで脆くなる性質を持っている。僕らも心揺れてはその形を変えてきた。でも脆くなるか、逆に強くなるかはガラスとは違って分からない。そのとき支えになるのは、信念と理由だ。

ひらのさんの熱い想いに触れて、僕らの心に火が灯る。どう変わるか、やり続けるか。自分次第だと改めて強く思う。

 

僕らの友達について

■ひらのまり

 Instagram:@marihirano_official

 

 

今回訪れた場所はこちら

■璃房ステンドグラス

オーダーメイドの窓パネル専門工房。生徒1人ひとりと向き合う個人工房で、対話をしながら制作できるのが魅力。代表の五味さんのもとでは、伸び伸びとステンドグラス作品の制作ができる。

住所:東京都渋谷区神宮前3-36-26 ヴィラ内川303

Instagram:@ribo_stainedglass

 

 

記事の創り手について

■anju – 取材・執筆

 気がつけば読書にどっぷりと浸かる生活スタイルになってました。普段はフリーで編集やライターをやりながら本屋を巡っています。読んだら何かが掴めるような記事を届けたい。

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■ジツカワ タクミ – 編集

 “たくさんの人には知られていないけど、強く光るものにスポットライトを当てていく意識” を大切に、街やお店、モノや人に寄り添ってお伝えしていきます。

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■シュン – 撮影・編集

チトセの代表と編集長、カメラマンを務めています。“僕らがたのしく生きるために” をテーマに、親しい友人から話を聞いているような、そんな等身大のメディアを目指して。「楽しいから楽しむのではない。楽しむから、楽しいのだ。」という言葉を大切に日々を生きています。

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